メンタル病んじゃった日記

メンタル病みました.以下,別に面白くもなんともない備忘録.

 

原因

経緯についてはあんまり詳しくは書けないけど理由は以下のような感じ.

  • 仕事が忙しすぎた

奥さんから狂った会社で働いていると思われているくらいにはいつも忙しいのだが,GW前後は特におかしかった.GW前くらいからハプニングが発生して半月ほど宿泊を伴う出張を頻繁に繰り返しており、出張先では毎日0時まで働くような生活が続いていた.社会人博士課程での論文執筆も重なり,睡眠だけは死守していたがヘロヘロだった.

 

  • 普段行かない別のオフィスの雰囲気が悪すぎた

これが一番の原因な気がする.ハプニングの内容がかなり重大で,別のオフィスにいる元々苦手だった上司の機嫌がとにかく悪く,職場の雰囲気が最悪だった.

自分が何か言われていたわけではないけど,悪口や怒鳴り声を聞き続けて常に過緊張のような状態にあったのがかなりこたえた.職場で他人の悪口を大勢に聞こえるように言うな.

あと、仕事でやらかした時にこんな感じで罵倒が飛ぶのかというのが身に刻まれてしまい,会社や組織に対する不信感がどんどん膨れていった.

 

  • 仕事のプレッシャー

出張が続く中で本来の仕事を放置しすぎたため,1人だけ出張から解放されて帰された.

助かったとは思ったが上司たちは引き続き出張先に拘束されたままで,出張に行ってる間に遅れに遅れた業務を1人で進めていくことに大きなプレッシャーを感じていた.

 

で,どうなった?

とある週末,私以外の部のメンバーは相変わらず出張先に拘束されていたので,自分も家で作業をしようとしたけど,全然集中ができない.

今思えばこの時はもう,「休みたいけどみんなやってるから自分もやらなきゃ」「休みたいけど休んだら遅れている業務がさらに遅れる」みたいな思考に取り憑かれてて,休むことも選べないような状態だった.週末なのに.

作業をしていて,ある計算のミスを見つけた瞬間に自分の中で「無理だ」という感情がどんどん湧いてきた.そこからいろいろな不安(仕事は終わるのか,問題なく最後までできるのかなど)が大きくなり,家にいた奥さんに話をしているうちに泣いてしまった.

自分でも自分の様子がおかしいことは認識していたし,奥さんも同意見であったので上司が出張先から帰ってくる月曜の午後のタイミングでアポとり.

月曜はどうにか会社に行ったけど,仕事に集中できなかったのでとりあえず会社に常駐している保健師のところに行った.そこで話をしていてめちゃくちゃ泣いてしまう.見ず知らずの成人男性がいきなり泣き出しても落ち着いて話を聞いてくれる保健師はすごい.

午後の部長との面談でもめちゃくちゃ泣いてしまう.部長も冷静だった.さては慣れてるなオメー.

総じて仕事ができる状態にないと判断されそのまま引き継ぎを行い休みに突入。

 

病院へ

保健師さんから病院を数件紹介してもらったので自分で電話したが,どこの病院も初診だと最速で2週間後と言われる.一番長いところは4か月後だった.それ予約する人おるんか?

心療内科は先生との相性による」といろんな人からアドバイスをもらっていたが,結局自分も2か所の病院に行くことになった.ただ,相性というよりは,こちらが病院に慣れてなかったのも原因だったと思う.

1か所目の病院では,治療方針の希望の伝え方とかどういう治療になるのかということを全くわかってなかったため,納得のいく説明と方針がもらえなかった.それを踏まえたうえで2か所めの病院では限られた時間で上手く伝えることができたので結局2か所目の病院でおせわになることに.

意思決定能力が弱くなるというのも症状の一つであるそうなので可能なら家族と行ったほうがいいと思った.

診断書が出るまでは有給使うしかないので有給を大量消化したが,余りまくっていたのでまあそれは問題なし.

 

感想

症状について

メンタルがやばくなると眠れなくなるとか顔の筋肉が痙攣するとか,そういった前兆があると聞いていたけど、身体的な前触れは特になく突然の発症だった.眠れないとか食欲がないといったことはなく,おなかの調子だけがあまり良くないような状態なので,かなり軽傷ではないだろうか.軽傷の段階で離脱できたのは,奥さんの客観的な意見のおかげだと思う.自分一人だともっと無理して重症になっていた気がする.

休み始めてからも身体的な症状はおなかの調子がよくないだけで変わらずなのだが,会社のことを考えたりメールを見るともやもやとした感覚を胸のあたりに覚えることがあった.梅干を見ると唾が出るのと同じでこういったことはよくあるらしい.黒の組織が近づくと瞳孔が開いていた初期の灰原哀みたいな感じか.

 

休んでから

家ではのんびり本を読んだり研究をしたり家事をしたりしている.上述の通り軽症なので、正直、家にいる間は体調崩す前と特に過ごし方は変わらない。研究は今回の件とはあんまり関係なく自分でもできると判断できたので行っているが,拒否反応もないしあまり何もしないのももどかしいのでちょうどいいリハビリだと思って続けてみる.

あとはティアキンですね.最近は職業:勇者と言っても差し支えない.

転職のことも考え始めた方がいいんだろうなとは思っているが,今回の原因に対して会社がどう対処するのかとか会社の出方にもよるので,今は情報を集めたり転職の本を読んだり転職経験者の話を聞いたりしている.

 

こんな状態になってやっと仕事に対する向き合い方を真剣に考え始めた.今まで時間も頭のキャパも仕事に大きく割いていたけど,これからはどうしていきたいかをよく考えたい.金銭面では損してるし,休むことは不本意ではあるんだけど,いろいろな考えや行動のきっかけになるという点では悪いことばかりではないかも知れない.というのがめちゃくちゃありきたりだけど今の正直な感想.

2022年総括

毎年なんらかのまとめの文章をどこかのSNSに放流している気がするけど、今年は結構色々な変化があった年なのでちょっと長めにまとめてみます。帰省のバスの中が暇なのもある。

 

結婚した

1月に顔合わせ、4月に入籍、6月に新婚旅行第一弾、7月に前撮り、8月に挙式と前半は結婚イベント目白押しでした。

奥さんが前撮りも式もしたいということで、私としても異論はないのでどちらも遂行しました。私はこだわりのない人間であることを自覚していますが、私と逆でしっかりと意思とこだわりを持っている奥さんが陣頭指揮をとって、実現したいことの優先順位を明確にしてくれたのが非常にありがたかったです。

前撮りが一回延期になった上に、撮影日もめちゃくちゃ雨が降ってたり、結婚式の座席表の発注を間違えられたり、細かいミスやハプニングは沢山あったけど、概ねスムーズにやりたいことを実現できたのは良かったし、満足のいく結婚イベントができたと考えています。あとやっぱり結婚式は本当に色んな人に主役扱いしてもらえて、貴重な1日だったと思います。

新婚生活はどう?って色んな人に聞かれますが、同棲はもう2年くらいしているので生活にあんまり変化はないです。穏やかで良し。

 

資格を取った

技術士の資格を取りました。

4回目の受験でようやくですが、特に数十万するセミナーとかも受講せず、ほぼ自力なのでまぁこんなもんかと思います。30代前半は業界ではまだまだ若手なので、この歳で取れるとできるやつっぽく思われるのも良いです。資格取って会社からはお金をもらいましたが、今までの受験費用と東京に面接を受けに行った交通費でほぼトントンです。もっと手当欲しい。

 

D2に進学した

論文が書けてません。サボっているわけではないのですが、解析で学位を取ろうとしているのでいい結果が出ない時はずっと出ない状態が続いてしまって苦しいです。正直今の時点で一本も論文出せてない時点で3年での卒業は厳しいだろうと思ってます。学費がかかるぜ……。

私が感じているストレスの半分くらいは研究がうまく行ってないことに起因すると思っていて(残り半分は仕事がクッソ忙しいこと)、とにかく一本でも早く出したいという思いを日々感じています。

あと、休みの日を研究に捧げているのも本当に奥さんに申し訳ない。毎日仕事も遅い上に休みの日も色々やってるのでメンタルいかれるんじゃないかと心配されています。自分自身は意外と平気なのですが、側から見てたらただのワーカホリックにしか見えないのは認識してます。

 

会社環境が変わった

転職したわけではないですけど、色々あって大きな組織に所属することになりました。思ってたほど仕事に影響は出てないですが会社の規模感が変わると、少しは意欲というか会社へのエンゲージメントも変わってくるなとは思ってます。

 

コロナにかかった

年末についに罹患しました。今まで奥さんが罹患したり会社の人の濃厚接触者になったり色々ある中でもなかなか罹らんなぁ〜って思ってましたが、年末の一番忙しい時期に罹患してしまいました。というか、忙しくて明らかに疲れてたのも原因な気がしますが。

実は発症の1日前に4回目のワクチンを打っており、副反応で高熱による暑さと寒気の繰り返しと、割れるような頭痛で1日くらいぶっ倒れていました。それが収まってきたと思ったら咳が出始め、なんか変だなと思って病院に行ったら陽性判定。その時点で平熱で喉も痛くなく、少し咳が出るくらい。結局どこまでが副反応でどこからコロナの症状だったのかも曖昧でめちゃくちゃ軽症でした。

ワクチンのおかげかもしれないけど、毎回ワクチン打つたびに高熱出して寝込んでるので、ワクチンくんには働いてもらって軽症にしてもらわないと困ります。あと軽症とはいえ1週間部屋に閉じこもっているのは中々に苦痛なので、もうかかりたくないです。

 

バドに行かなくなった

あれほどバドミントンをしていたのに今年は数えるほどしかバドミントンしてません。単純に忙しすぎて行けないのもあるし、引っ越してから遠くなったのも要因。数少ない趣味かつ、バドのサークルは貴重な人間関係なのでなんとか細くても続けていきたい。

 

漫画と本をあまり読まなくなった

今年読んだ本は15冊。漫画は紙で買ったものをほとんど読まなくなりました。移動時間に読むことが多いから電子の方が読みやすいことに気づき、ほとんどを電子購入に切り替えて細々と読んでいます。

自分の思考や人格形成の何割かは本や漫画で作られたものだと思っているので、このまま読まなくなると、自分の柔軟性が無くなりそうで怖いので、時間がないとか言い訳せずにどうにかして読み続けていきたいです。

 

来年

ここ数年、仕事と研究に時間と思考をぶんどられているのですが、今年はそれに加えて結婚イベントもこなしたということで、時間が無い中でも色々こなす術を段々身につけてきた感じがあります。

来年は研究も仕事もメンタルと身体のために自衛してほどほどに手を抜きながら、着々と進めて身につけるところは身につけるようにしたいです。要するに上手くやりたいです。限られたリソースを自分の好きなこととやりたいことと好きな人に使いたいです。私を軽んじる人間や無礼な人に乱されたくない。

というわけで来年の目標は「上手くやる」です。今決めました。

 

私の好きな人たちと、私を好いてくれるみなさん、来年もよろしくお願いします。

今年読んだ本とか 2019年編

今年読んだ本たち

今年は31タイトルの本を読みました。もっと読んだ気がしてたけど、後述の十二国記のように4分冊本とか上下巻の本が多かったので、タイトル数だとこのような数に落ち着いた。

思えば昨年はTwitterでジャンルを指定して読む本を投票で決めるという主体性のかけらもない読書の仕方をしてたわけだけど、そうこうしていたら読みたい本がたくさんたまってきたのと、アンケートのコンテンツ力の低下を感じたので今年は思うがままに読んでみた。そうして読んだ結果、今年のランキングは以下のとおり。

bookmeter.com

正直1~6位くらいまではあんまり順位へのこだわりはないのだけど、記憶に残っていたりインパクトが大きいものが上位に来ている気がする。とりあえず何冊か紹介していく。

 

世界の中心で、愛をさけぶ / 片山恭一

平成最後に平成で一番売れた恋愛小説を読もうということで手に取った本。

読書メーターのこの本の書評を読むと「昔に流行った本らしいですね」とか「映画で見たことがあります」とか書いてあって、年齢を感じて少し愕然としてしまった。調べてみると320万部売れていたらしいが、確かに当時のブームはすさまじく、普段は全く本を読まない友人までも、どっかから借りてきたハードカバーを手に取って読んだりしていた気がする。当時は私も読んだけど、中学生にありがちなひねくれた発想で「まぁこんなもんか」という程度の感想を覚えたような記憶がある。

で、今回改めて読んだわけですけど、わりとドはまりした。柴咲コウの「かたちあるもの」を聞きまくったし、「本当に何にもわかってなかったな当時の自分!!周りの評価に流されたらあかんで!!!!」と過去の自分を叱りたくなった。

もし、私と同年代で当時と同じような感覚でこの本のことを「はいはい、泣ける本でしょ~主人公の彼女が死ぬんでしょ~」みたいな認識でいる人がいるならそれは本当にもったいないと思う。いやマジで。

確かに泣ける話ではあるんだけど、作者はどう考えても「よっしゃ、いっちょ悲しい展開で読者泣かせたりますか~」って感じで書いてるようには思えない。だいたい、主人公の彼女(亜紀)が死を迎えることは冒頭で書いてある。なんなら最初のシーンは亜紀の死後である。

ただの勘ではあるけど、作者はこの本で「大切な人を亡くすこと」を書きたかったんではないかと思う。タイトルの「世界」は主人公にとっての彼女(亜紀)のいる世界といない世界を指していると思っていて、作中はどちらの世界も書かれているのだけど、個人的には後のほう、彼女がいなくなった世界を主人公がどうやって生きるかを書いたところですごく思うところがあった。

私は30年近く生きてきて、まだ葬式にほとんど出たことがなくて(なんならこの10年出てない)、本当に大切な人には会おうと思えば会えるんだけど、そういった人たちとの別れが訪れたときに多分この本を思い出すと思う。人生の節目に思い出せる予感がする本って、あんまりないし、そういう点でこの本は今年一番印象に残った本だった。

長々書いたけど、結局引用したほうが一番魅力が伝わる気がするので、最後に引用します。みんな読んでみてね。

耳のすぐそばで、彼女はしゃべっていた。懐かしい、あのはにかむような声で。やさしい心はどこへ行ったのだろう。アキという一人の人間のなかに包み込まれていた美しいもの、善いもの、繊細なものは、どこへ行ってしまったのだろう。夜の雪原を走る列車のように、明るく光る星の下を、いまも走りつづけているのだろうか。どこへとも行方を定めずに。この世界の基準では測れない方位に沿って。 

 

世界の中心で、愛をさけぶ 小学館文庫

世界の中心で、愛をさけぶ 小学館文庫

 

 

愛がなんだ / 角田光代

いや、結局恋愛小説ばっかり紹介するやんと思われるかもしれないけど、よかったものはよかったのだからしょうがない。今年映画化された作品なんだけど、映画に行くより本読んだほうが早いなと思って読んだ。どう考えても映画に行くほうが早いのだけど、まぁそういう気分だったんだろう。

いわゆる周りが見えなくなっちゃう系恋愛小説で、主人公のテルちゃんが好きな男(マモちゃん:クズ)にとにかく振り回される。マモちゃんからいつ電話が来ても取れるように勤務中でも携帯をずっと触ったり、社内の人間関係を犠牲にしたりして、ついには仕事まで辞めてしまう。そのあたりまでは見てられないんだけど、マモちゃんの好きな女が登場するあたりから、読んでる方ももう開き直ってくる。

主人公は絶対あきらめない。好きな人に好かれなくても、邪険に扱われても、便利屋として扱われても。合理性が吹っ飛んでてこその恋愛感情だし、一般的な論理とかけ離れたところにある感情をどうやって書くのかが恋愛小説の難しさだと思う。ある恋愛小説を読んだとき、まったく共感できず、主人公の行動が理解できずにイライラしてしまったんだけど、「愛がなんだ」は共感できなくても面白く読めてしまった。面白く読めた理由は、多分主人公の行動論理がはっきり示されていることと、主人公の人間性がきちんと書かれているからだと思う。

そういうわけで恋愛小説はちょっと……って思ってる人も一回読んでみてほしい。勉強するもんでもないけど、勉強になるよ。

 

愛がなんだ (角川文庫)

愛がなんだ (角川文庫)

 

 

ゲームの王国 / 小川哲

つい最近読んだんだけど、内容が複雑で紹介できる気がしない……。

舞台はカンボジア、クメールルージュがカンボジアを統治する少し前から始まる。ジャンルは一応SFなんだけど、あまりSF要素は多くない。上巻はクメールルージュ統治前から、クメールルージュが台頭して、カンボジアポルポトのもとで独裁国家になっていく様子が書かれる。

上巻は歴史小説のようで、一体どこまでが事実で、どこからか創作なのかがわからなくなってくる(明らかに史実ではありえない不思議な能力を持った人間も出てくる)。そんななかでも、多分この人が主人公なんだろうなぁって人が二人登場する。辺境の村で育った潔癖症の少年ムイタックと、ポルポトの隠し子と称され嘘を見抜く能力を持つ少女ソリヤ、上巻では二人の育った環境と成長、出会いと別れが書かれている。

下巻はすっぱりと時間が経過し、2003年~2023年のカンボジアが舞台になり、ゲームを作成し、脳科学を研究する学者になったムイタックと、政治家になりカンボジアをよくすることを目指すソリヤが登場する。

社会はルールがあるという点でゲームに似ているんだけど、クメールルージュはルール違反をなくすために、国民から知識を奪い、すべてを管理することによってルール違反をできなくした。そして現代のカンボジアではいまだに政治の世界でも警察などの公務員にも賄賂の文化があり、ルールを変えることができてしまう。これはゲームではあってはならない。

二人の天才はゲームで勝つこと、ルールに規定された中で知力をぶつけることに価値を見出し、歴史に翻弄されながらもそれぞれのゲームの王国を目指した。

 という感じの話なんですけど、え、どう?このあらすじで読みたいって気分になりました?なれないかもしれないって不安があるんだけど、めちゃくちゃ面白いので、読んでほしい……。自分の書評の下手さを恨む……読んでくれ頼む……。

 

ゲームの王国 上 (ハヤカワ文庫JA)

ゲームの王国 上 (ハヤカワ文庫JA)

 

 

ゲームの王国 下 (ハヤカワ文庫JA)

ゲームの王国 下 (ハヤカワ文庫JA)

 

 

やがて海へと届く / 彩瀬まる

3月11日の震災後、友人の行方がわからなくなった主人公は、その死が受け入れられずにいる。友人の持ち物を整理すると言い出した友人の恋人や、亡くなった友人の言葉を代弁しようとする友人の母のことを主人公は受け入れられない。

何も言わずに突然いなくなった人に対して、私たちが取れる行動は驚くほど少ない。体を動かして何か解決できるわけじゃないし、ずっと考え続けて、自分のなかでどうにかしないといけない。正解もない問題をずっと考え続けるのはとても辛いけど、多分生きているとこうした問題は山ほど抱えていかないといけないのだと思う。そんな問題を解いたり、解けなかったり、解けた気になったりしながら生きていかないといけない。

 

ちなみに、作者の彩瀬まるさんは東北への旅行中に東日本大震災に遭い、避難所生活も経験されている。そんな彩瀬まるさんの体験を書いた、ルポルタージュも出ているのでそちらもぜひ読んでほしい。読書体験は自分の想像力を補う力添えをするものだと思っているんだけど、本当にあった出来事を書いたこうしたルポルタージュを読むことで自分の想像力がいかに限られたものであるか、わかると思う。

 

やがて海へと届く (講談社文庫)

やがて海へと届く (講談社文庫)

 

 

暗い夜、星を数えて: 3・11被災鉄道からの脱出 (新潮文庫)

暗い夜、星を数えて: 3・11被災鉄道からの脱出 (新潮文庫)

  • 作者:彩瀬 まる
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 2019/02/28
  • メディア: 文庫
 

 

今年中に書き終わらないので後は短文でまとめ

白銀の墟 玄の月 / 小野不由美

 ようやく出た十二国記シリーズ新刊。私の中で驍宗は14年行方不明になっていたのですが、ほんとに続きが読めてよかった……。作りこみがすごすぎて、小野先生への感謝しかない。今からシリーズ読んでも間に合います。社会人になった今、広い部屋と財力を生かして是非シリーズ通して買ってください。

 

白銀の墟 玄の月 第一巻 十二国記 (新潮文庫)

白銀の墟 玄の月 第一巻 十二国記 (新潮文庫)

  • 作者:小野 不由美
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 2019/10/12
  • メディア: 文庫
 

 

平山夢明さんの作品について

 今年は平山夢明さんの本を5冊くらい読んだ。本当に下品でグロくてむごいので決して他人には勧められない本ばかりなんだけど、怖いもの見たさで読んでしまう。小説に書かれている底辺は決して非現実的なものではなくて、実際にありそうなもので、私たちはそこを見ないように、見なくて良いように生きている。底辺をわざわざ見る必要もないけど、でも見ておいてもいいんじゃないか、そういう理由で読んでいるような気がする。

 

星明かりグラフィクス / 山本和音

今年完結した漫画です。全三巻。埼玉の芸大が舞台なんだけど、才能のある人間とない人間の話で、自分の大学生活と重ねて読んでしまった。才能のあるなしって振り返ってみてわかることもあると思っていて、自分はやっぱり才能がない側の人間なので、そのあがき方、身の振り方に共感を覚えながら読んだ。きれいにまとまっていておすすめの漫画です。

 

 

星明かりグラフィクス 1 (ハルタコミックス)

星明かりグラフィクス 1 (ハルタコミックス)

 

 

来年の目標

なんというか、漫画や本を読む時間が年々短くなってきている。特に漫画は今年はあんまり読まなかった。読まなかった時間は別に使っているわけで、人間関係だったり、ゲームしたり、仕事したり、いろいろなことに消化しているんだけど、読書や漫画は自己形成に大きな影響を与えたものだと思っているので、このまま何かを読む行為から遠ざかっていくのは避けたいなとは思っている。

というわけで来年も色々と手を伸ばして読んでいきたい。目標は今年を超える40冊で!!みなさん、面白い本はどんどん紹介していってください。特にサークルの民は文章がみんなうまいと思っているので書評は大歓迎です、よろしくお願いします。

みかづき / 森絵都

あらすじ(Amazonから引用)

昭和36年。放課後の用務員室で子供たちに勉強を教えていた大島吾郎は、ある少女の母・千明に見込まれ、学習塾を開くことに。この決断が、何代にもわたる大島家の波瀾万丈の人生の幕開けとなる。二人は結婚し、娘も誕生。戦後のベビーブームや高度経済成長の時流に乗り、急速に塾は成長していくが…。第14回本屋大賞で2位となり、中央公論文芸賞を受賞した心揺さぶる大河小説、ついに文庫化。」

 

ストーリーの話

素晴らしかった。読み始めた当初は、登場人物たちが個性的で、言動もドラマじみていて、映像化向けだと思っていたが、森絵都はやはり小説が上手かった。

一つは話の裏切り方。主人公は決して清廉潔白ではない。教師という言わば「聖職」である主人公をある意味人間らしくする「裏切り」の展開を最初からかましてくれる。

それと展開の速さ。Kindleでは小説の何パーセントくらい読んだかが表示されて一目でわかるのだが、感覚と話の進み方のズレがすごい。

読みながら、「まだこれだけ?」から「もう終わってしまう…」への自分の気持ちの移り方がはっきりとわかる。

あとは盛り上げどころの作り方。何回泣くかと思ったわ。家族の大河小説の書き方が抜群に上手いと思った。親の歩んだ道と自分の歩んだ道が僅かながらに重なる瞬間、妻と娘、親と自分、そういった家族の縦の繋がりを登場人物たちが時間を超えて感じる瞬間に盛り上がりを持ってくるやり方が本当に素晴らしい。最初はドラマみたいだと思っていたが、こういう盛り上げ方は小説ならではで、やはり森絵都は小説が上手いと思う。

 

 

教育と塾の話

作中でこんな言葉が出てくる。

「(前略)学校教育が太陽だとしたら、塾は月のような存在になると思うんです。太陽の光を十分に吸収できない子どもたちを、暗がりの中で静かに照らす月。」

この本を読むまで、塾というものをあまり深く考えたことがなかった。

この本はある家族の大河小説であると同時に、日本の塾と学校教育の歴史を書いた本でもある。塾と学校教育の関係、文部省との関係、政策と政治にどこまでも振り回される教育者と教育の当事者である子供たち。戦後五十年にわたる日本の教育はたしかに、いつの時代も批判にさらされてきたのだろう。しかしそれはいつの時代もそれを良くしようと努力する人がいたことの裏返しでもあると思う。国の根幹を支え、宝である子供の将来を作るために不可欠なものが教育であり、それに人生を捧げる教員や塾講師には、頭が下がる。

 

自分の話

そもそも私は習う立場で塾に行ったことがない。行く必要がなかったとか、経済的に〜とか、そういうことではなく根本的に生まれ育ったところに塾が無かった。ただ私自身勉強のモチベーションに困ったことはなかったし、親は私の勉強にも一切の口出しはしなかった。わからないことは学校の先生に聞いて、それに答えてもらえる環境の中にあった。本当に恵まれていたと思う。

塾に携わったのは、大学生になってアルバイトとして教える側の立場になってからだった。私が働いていたのはいわゆる進学塾ではなく補習塾(というか個別指導)だったが、親に無理矢理塾に行かされた、勉強がわからないし嫌いな子どもたちと、教育の素人でろくに研修も受けていない大学生アルバイト、子供の成績を伸ばすよりも教室の売り上げのことで精一杯な教室長が集う空間だった。そこには教育とビジネスという簡単には相容れない二つの図式があり、落ちこぼれる子はとことん落ちこぼれる教育の問題点があった。私もやはりたかがアルバイトという考えで熱意もそこそこに塾講師をやっていたし、そんな図式にも気付かず、問題点も見て見ぬ振りをした。補習塾の塾講師なんて簡単に手を出すものではなかったのだろうか。あの時私が教えていた子どもたちの顔は思い出せるけど、もちろん彼らが今どんな進路を歩んでいるのかは知る由もない。

 

森絵都の話

森絵都は私が人生で一番最初にハマった作家だ。中学生のとき、おそらく最初に読んだ作品は「リズム」と「ゴールドフィッシュ」だった。当時の森絵都ヤングアダルト作家で、ちょうど中学生だった我々にどんぴしゃだったような気がする。そんな森絵都さんも「風に舞い上がるビニールシート」で直木賞を取り、今は一般文芸で活躍している。自分が本にハマるきっかけを作った作家が今でも第一線で活躍しているのは嬉しい。

オススメは「つきのふね」「カラフル」「風に舞い上がるビニールシート」です。「永遠の出口」も良かったと思うけど、私自身読んだのが中学生のときなので、もう一回読み直したいなと思っている。

恋愛小説評 2018年編

  • 訳あって恋愛小説をたくさん読んだ一年

別に大した訳ではなく、Twitterのフォロワーへのアンケートで読む本のジャンルを決めてたら恋愛小説ばっかり指定されて、結果的にたくさん恋愛小説を読むことになった。

ただ、指定はジャンルのみで読む本そのものは自分で決めているので、いまいち恋愛小説と呼ばないものがあったり、王道的な恋愛小説はなかったりするけど、そのあたりの事情も含めて、人に勧めたい本を紹介したいと思いこのブログを(わざわざ眠ってたはてなのアカウントを掘り起こして)書いてみる。以下時系列順の今年読んだ恋愛小説たちです。

 

寝ても覚めても 柴崎友香

時系列順なのでしかたないのだが、いきなり今年読んだ恋愛小説の中でも1番の問題作を紹介することになってしまった。

根本的にとにかく読みづらい。映画化に際して本の装丁も東出昌大とかにわざわざ変更してあるのだけど、映画から入ったライト層なんていらんわと言わんばかりの読みづらさ。柴崎友香さんの本はこれともう一冊しか読んだことないんだけど*1、文体は確かに独特だし、それが特徴でもあるらしい。

話の大筋を説明すると、「主人公の女性は若い頃にどこか得体の知れない感じのする男と付き合っていたのだが、その男は突然ふらっといなくなってしまう。数年後にその男とよく似た男性と出会い、その人と付き合うことになるのだが、昔の男が主人公の目の前に突然現れて……といった感じ。

私はこの本けっこう好きで、主人公の言動は確かにやべーなという感じはするのだけど、恋愛をしている最中の利己的で盲目的な行動が上手に書かれていると思う。

ただやっぱり内容も万人受けするとは言い難く、主人公の言動にイライラする人はかなり多いのではないかと思う。女性がこれを読んだらどう思うんだろうっていうのはかなり気になるところである。*2

 

ズームーデイズ 井上荒野

みなさん、井上荒野さんをご存知?私は「切羽へ」で直木賞を獲った人ということくらいしか知らなかった。この本の主人公は、昔に賞を獲ったけどその後かけなくなってしまった「いちおう」小説家。主人公の父親が小説家であること、そして文学賞受賞後に書けない時期があったこと、その時期の間にガンにかかることなどは、実は作者本人のプロフィールと重なっている。

その主人公の「書けなかった」7年の間の、8歳年下のズームーという恋人との同棲生活を描いたのがこの小説。

主人公はほんっとうにダメダメで、ズームーと付き合う前から妻子ある男性のことが好きで、ズームーと同棲してるのに、不倫相手の呼び出しには応じてしまったり、小説がかけなくて日中家でゴロゴロしている間にその不倫相手の電話をひたすら待ってたりする。しかもその不倫相手にはどう見ても弄ばれているのに、それをわかっていながらも主人公は「好きだから、仕方がない」という気持ちでいるような感じ。ダメダメである。

ダメダメな主人公はダメダメであることを自覚しながらも、どこかそんな生活から抜け出せないでいる。恋人とほんとに呼べるかわからない同棲相手との生活も、弄ばれてる不倫相手との関係も、書けない小説も、近くにおいた状態から動けない。宙ぶらりんで不安定で虚無な状態。そんな「生活」の小説だから、恋愛小説とは実は呼べないのかもしれない。だから逆に、恋愛小説はべつにええわって思ってる人にもおすすめできる本。

 

7月24日通り 吉田修一*3

7月24日通りというのはリスボンにある通りの名前らしい。主人公の小百合は自分の住む街の所々とリスボンの街を重ねて、脳内では当てはめたリスボンの地名で通りやバス停を呼んでいる。高校時代からの憧れの人に心惹かれたり、イケメンな弟が自慢だったり、どこかで自分は主役になれないと思っている主人公は、高校時代とさえない自分というしがらみに囚われたように、どこにも行けない。地元をリスボンの地名になぞらえはしても、リスボンには行ったこともないのと同じ。

長編の恋愛小説にしては平坦な内容だと思う。主人公には大きく劇的なことは起こらない。でも小さな出来事の積み重ねから、考えは少しずつ変化していて、そして小説の最後で主人公はある選択をする。選択の正しさはさておいて、その行動をとるということに大きな意味があって、その瞬間に主人公が一つ自分の殻を破るような感覚がある。

内容は平坦だし、主人公の最後の選択も恋愛小説としては盛り上がりには欠けるのかもしれないけど、自分を変えたい若い女性の物語としては、リアリティがあってとても良かったと思う。

あとはそう、ある登場人物が語る「自分がモテない10の理由」がなにげに好きでした。

 

どきどきフェノメノン 森博嗣

恋愛小説っていうかラブコメディといったほうがいいかもしれない。

主人公は理系女性院生で、生活のなかからドキドキを探すのが趣味。指導教官に好意を持っているけど、読んでてもいまいちその気持ちを伝えたいのかどうかもわからず、ドキドキが供給されることを目的としているような気もする。

まぁこれはコメディですわ。内容はかなりデフォルメと言うか、リアリティは抑えめというか、好きに書きましたねーって感じ。

主人公の一人称で話が進むのだけど、かなり思考回路が独特というか飛躍したり洒落を言ったりが多い。そこも面白いのだけど、面白いと万人が感じるかと言われると微妙だと思う。

正直もはや森博嗣がラブコメを書いているという事実だけでも面白くて、「俺は全然ありやと思うで」といった感じで読み切れた。ただ、これが一般的にどう評価されるのかは謎だし、恋愛小説でくくっていいのかも正直よくわからん。まぁでも森博嗣が好きな人は読んで損はないと思うで。私は。 だんだん適当になってきた。でもほんとに評価がむずい。

 

ニシノユキヒコの恋と冒険 川上弘美

とにかくモテる男、ニシノユキヒコ。その人と関わった女性たちの視点で書かれた短編集。ニシノユキヒコはとにかくモテるが、爽やかさと軽薄さの裏にある虚無感や、人を心の底から愛せない本質から誰とも長く関係が続かない。だからこの短編は全て「恋愛の終わり」が書かれている。

私が今年読んだ恋愛小説では1番。文句なしの傑作だと思う。

作中の女性はみんなニシノユキヒコを愛するのだけど、彼の虚無感とどうしようもない孤独感にどこかで気づいたり、気づかなくても察したりして最後には離れてしまう。その女性たちの恋愛の終わりに気づく瞬間、ニシノユキヒコを好きだった、もしくは今も好きなのに、でも関係が続けられなくて、「この男はもうすぐ私を好きでなくなる」と思うその瞬間の描写がとにかく繊細で切ない。多少なりとも二人で生きていた人間が、一人で別々に生きていこうとする時の女性側の芯の強さのようなものが読めたのがとても良かった。

なんかこの本に関しては、あまり多くを語るよりとにかく読んでみてほしいという気持ちが強いのでみんな読んでみてほしい。*4

 

ホテルローヤル 桜木紫乃

もはや恋愛小説ではない。読む本は自分で決めるという部分の欠陥が見えた形になってしまった。

釧路の湿原を望むラブホテル「ホテルローヤル」にまつわる6つの短編集。ラブホが舞台だから恋愛小説だろというクソみたいに軽薄な理由付けで読んだ。

恋愛小説ではないのだけど、内容はとても良かったです。とにかく恐ろしく切ない。

舞台がただのラブホではなく「釧路の」ラブホであることが重要だと思ってて、登場人物たちの背景には地方の閉塞感や貧困があり、誰もがとても手放しに幸せと呼べる生活を送っているわけではない*5。そして登場人物には家族関係で問題を抱えている人たちが多く登場する。壊れた家族関係と、ラブホテルで築かれる決してすべてがまっとうと言えない男女の関係の対比。あぁ切ない。

あと、時系列が逆になってて、短編集が進むごとに時間が巻き戻っていく。だから読者は登場人物たちの行為の結末を先に知ってしまうような構成になっている。やっぱり切ない。

とにかく切なくて寂しくて暗い小説でした。でも人の生活の話として、すごく完成度は高いと思う。みなさん元気なときに読みましょう。

 

  • 結論

わかっていたけど、王道的な恋愛小説は一つも読まなかったし、ハッピーエンドもほとんどない(どきどきフェノメノンくらいか?)。こういう「苦い恋愛小説」の需要ってどんなもんなんろうって思ったけど、こうやって書評を書くことで良いと思った本が誰かの手に渡れば良いなと思った。だから私に恋愛小説を勧めたみんなはここに挙げた本をぜひ読んでください。

あと、もっと恋愛小説以外のジャンルにも投票してください。

*1:ちなみに読んだ本は「ビリジアン」

*2:というかこの本に限らずなのだが、恋愛小説は異性が読んだときにどう感じるんだろうっていう感想を抱くことが多い

*3:それ氏が昔勧めてたので読んでみた本。おすすめがあったらみんなもどんどん発信しよう

*4:書評を語っといてこの一文はどうなんだという気がする

*5:釧路に行ったことがないのだけど、勝手に僻地を想像してます。違ったらごめんなさい。